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【同人プロファイリング。】


1975年に「コミケ」を始めた主宰者は、ひじょうに意欲的な人々だっただろうけれども、彼らの発刊した漫画評論誌は、ガリ版刷り100部だった。他は推して知るべしだろう。

それが、1980年代に入る頃には、オフセット印刷・プロによる製本が当たり前になっていた。インターネットもない時代に、短期間で何かすごいことが起きた。

もし男性がセクト化しやすいのに比べて、女性同士のクチコミネットワークの強力さが、情報と技術の模倣をあっという間に広げたのなら、今もなお(年配の)男性同人が女性同人に一歩引くような風情も、納得できるような気がする。

いわゆる同人誌の世界へ、1980年代に入ってから参加した子供たちにとって、「少年アニメをアレンジして耽美調漫画を描く」という作業自体が、すでに定型化していた。

なぜそんなことをしなければならないのか、自分にとって何の意味があるのか。将来へつながる活動なのか。誰も問い返すことがなかった。

学者が精神分析しても大したものが出て来ず、実態を反映していなかったのも無理はない。

1960年代にアニメ放映が始まって以来、1970年代に入っても、それを見ていられた人は、田畑・建設現場・食堂・病院などで忙しく働いていた人ではない。

ビデオデッキの普及は1970年代だが、当初は非常に高価だった。

家庭には、食器洗い機どころか、電子レンジも全自動洗濯機もなかった。炊飯器にタイマーさえ付いていなかった。コンビニも少なく、スーパーマーケットは夜7時には閉店してしまった。

炊飯器の第一号を発売したメーカーの企画会議では、開発陣の「米飯を炊く機器」という提案に対して、上層部が「寝ている間に飯を炊きたいなどという怠け女に我が社が協力してやる必要はない」って反対したそうだ。

が、実際には、まだ「寝ている間」には炊けなかった。(余談)

つまり創作活動に邁進することができた人は、時間に余裕のある学生・生徒だ。

「家の手伝いをしなさい」って言われないほうが好都合だから、活動場所は学内か、下宿部屋だ。

おそらく運動部ではない。24時間体制で実験経過を見守るなどという理系の学生でもない。通学しながら芸能活動にも励んでいるという人でもなさそうだ。

ガリ版刷り、または輪転機で藁判紙に印刷、ホッチキスで製本するには、機器と人手が必要だ。(当時は「ステープラー」なんて言わなかったさ。)

もともと文芸研究会・漫画同好会などに属しており、そのような作業に慣れていた人が候補の筆頭に挙げられるだろう。

もともと字書き・絵描きだった人々が、何かの拍子にアニメを見てみようと思った。

が、下宿部屋ひとつずつにテレビが備え付けられていたかどうかも怪しい。

だから、誰かの部屋に集まって、まだ世間的には子供の見るものと思われていた“テレビまんが”を鑑賞した。「ふーーん、こんなものか」と思った。

本気でワープ航法の可能性を論じる男子を尻目に、「○○と△△が怪しい」って小声で言った。たぶん。

一部の高学歴女性に、ロマン主義または耽美主義的な“衆道の契り”の知識が受け継がれ、根づいていただろうことは、疑わなくてよいと思う。1960年代に文芸サークルに属していれば、三島は必須教養だったはずだ。

同人作品における官能描写が過激化したのは、かなり後の話で、当初は場面の途中で暗転するようなものだった。女性が“ロマンチック”と感じる程度のソフトコア。『エマニエル夫人』も、第一作(1974年)はそんなもんだった。

だから今でも「ゲイとは違う」「ポルノとは違う」って言う。

とはいえ、親密な男同士を見て「ホモじゃないの?」って噂するのが、品の良い行為であるわけはない。仮にゲイという言葉を使っても、使いさえすれば根も葉もない噂を流してもよいという話でもない。

最初から、男性が聞いたら嫌な顔をするのを承知で、女同士で「まさか」とか「△△と□□のほうがもっと怪しいわ」などと笑い飛ばすことが目的で、つまり「笑う」ことが自己目的だ。

これに関する言い訳は「だって“男のロマン”ばかり威張っているから、悔しかったんだもん」になるだろう。

笑いは共感を高め、集団の結束を強める。

当時は「男には飲ませるな」というキャッチフレーズで、甘口調整ワインが売り出された。男性は飲みたがりもしなかったと思う。

重要なのは、その「男性は絶対に同調したがらない、女性ならではの奇抜な発想」から、大きな流れが始まったことだ。結果的に、創作界ひいては出版業界の様子を一変させた。

自費出版自体は『学校百年史』などでもお世話になる。生徒会の活動にでも加わっていれば、印刷所の存在を知ったかもしれない。教員の中には歌集・句集を発刊していた人がいたかもしれない。

とはいえ、そこへ官能小説を持ち込んでよいものか? 先生には見せられない漫画原稿はいかがなものか。「先輩が印刷所に就職したから、黙ってやってくれるって」なんて辺りから始まったかもしれない。

「費用は三万円くらいだって」「えッそんなお金ないよ」「まずアルバイト?」……

手探りで一歩ずつ進めた人々がいたはずだ。勇気と、しゃれッ気と、多少の世智をもって。

1980年代に入って、なにもかも定型化し、模倣しやすくなったのを見て、小遣い稼ぎ目的で参加したというのは、「後から流行に乗った」という話に過ぎず、申し訳ないが、あまり参考にならない。


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Misha

Author:Misha
スマホ時代にさからう評論系長文ブログ。冷静に通読できる大人の読者様を想定しています。

「若い人」に直接呼びかける文章は、18歳以上のヤングアダルト対象です。高校生は受験を最優先してください。

書く人は、新旧とりまぜて映画とアニメを見ながら文芸書に取りくんでみたり、昔の漫画を思い出したり、お国の先行きを心配したりしております。

記事中の色つき文字は、映画中の台詞・挿入歌からの引用です。あらすじは、あまり申しませんので、楽しみに御覧ください。取り上げる作品は、暴力・エロスなど特殊な要素を含んでいることもあります。

ときおり、耽美・BL・同人・LGBTに言及します。いずれの分野からも、偏見と差別と自虐がなくなるといいと思っております。

「二次創作の責任を二十四年組に押しつけるな」「実在同性愛者に甘えるな」が基調です。

全体として、二十四年組ファンが社会学者に物申すという珍しい構図。一部勘違い同人を叱責することによって全体を守るという意図もあり、ときにかなり辛口です。

記事は時々予告なく手直し・削除・分割しております。保存は個人的閲覧の範囲で、お早めに御随意に。転載・改変利用は固くお断り申し上げます。

解題


Casketとは、玉手箱。

でも検索すると棺桶がならびます。来世まで持っていきたい好きな作品の記録帳とご理解ください。