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【少年趣味を嗜む男性を嗜む女性の子供化。】


日本のボーイズラブは、銀座や新宿に実在する男の世界の観察記録として始まってはいません。

女性が参考にした文献として、名前が挙がっているのは、シェイクスピア、ワイルド、ジュネ、コクトー、ランボー、ヴェルレーヌ、マン、ヘッセ、井原西鶴、森鴎外、三島由紀夫、稲垣足穂。

澁澤を挙げる人はあまりいませんが、『異端の肖像』で紹介された何人かの古代皇帝や中世貴族のイメージも、重要な発想元だったろうと思います。

前にも申しましたが「漫画を読んで、漫画家になろうと思わずに小説に目覚めた」というのは、おかしな話です。

すでに戦前から、ごく一部の優秀な(海外文学などを読みこなす)女学生の間に、小説の形で連綿と受け継がれてきた、男性による稚児さん趣味に関する知識・偏愛があったと思って良いだろうと思います。

西欧でも、実際には厳しい差別があります。アムステルダムには、ナチスに迫害されたゲイの慰霊碑があります。また、未成年者を相手にしたがる男性がいると言えば、世界中のPTAに緊張が走って当然です。

だからこそ、絵画・文芸などの芸術分野では自由であろうというわけで、男性がひそかに嗜んできた少年趣味を、時おり公開したのでした。

すると今度は「そのような男性の姿」を女性がひそかに嗜むということが起きたのです。


【少年を愛好する男性を愛好する女性】

1960~70年代の女流少年趣味作品には「少年美を愛好する男性が主人公」というものがいくつかあります。

スポットライトが当たっているのは美少年のほうですが、彼の魅力を語る「視点」が年長者に取られています。少年同士であれば、より世話焼きで、比較的常識的な観察眼をもったほうが、語り手です。

ストレート男性の多くが「映画の中で悪者をやっつけて、自分を満足させてくれる人物」を、ヒーローとして応援します。

ストレート女性の何人かが「小説の中で美少年に近づいて、彼の澄んだ眼をのぞき込む経験を自分に与えてくれる人物」を、ヒーローとして応援したと考えると、無理がありません。

女性は「プロ野球の投手を好きになったから、自分自身を女流プロ捕手第一号として球団に認めさせる」ということを、あんまり致しません。与えられた文脈を、わりと素直に鑑賞・応援するほうへ回るものです。

女性が可愛い顔した異性を好む現象自体は、ずいぶん昔から知られています。三島由紀夫は「彼女たちのナルシシズムによる」と看破しました。

ボーイズラブ表現の眼目は、「女性読者の前に美少年が現れること」ではありません。それなら普通にアイドル歌手でも応援しに行けば良いです。

ボーイズラブ表現の主眼は、「美少年を愛好する男性」を鑑賞することです。

彼に嫉妬し、「不潔」と罵倒し、彼女が正常と信じる社会から排除しようとするのではなく、彼に思い入れ、幸せを願い、応援する趣味です。

「彼の」幸せですから、その相手にとっても幸せではない場合には、やや酸鼻な物語となりますが、男性を手にかけようと思う男性を女性が応援するという根本のところでは変わりありません。

世の中には稚児さん趣味の男性が存在するということを、女性が知った契機が「読書」だったとは、上で申し上げた通りです。

これを忘れてしまうと、「なぜアニメのスポーツマン同士をわざわざ組み合わせる必要があるのか!」と驚愕することになります。

また、この「美男を愛好する美男」に女性が親しみを感じる現象を、現実へ適用してしまうと、新宿のゲイ男性へなれなれしく話しかける現象となります。

紹介も受けていないのに、彼女自身の中でだけ、彼の心がよく分かるような気分になっているものです。また「(自分が見つめる価値があるだけの)美男でなければ許せない」などと勝手なことを言い出します。


【夜遊びにおける大人のマナー。】

ここで、単純に「大人として言って良いこと・悪いこと」の区別ができていれば良いのです。大人が夜の街へ遊びに行った時の、酔客としてのマナーを、ごく当たり前に、わきまえていれば良いのです。

酔っていようが楽しかろうが、通りすがりに他人の顔を見て笑ったり、遠くから声をかけておいて逃げたり、勝手に写真を取ったり、セクシャルハラスメント的な質問をしたり、議論を吹っかけたりしなければよろしいのです。

それをやってしまうのは、粋な大人の遊びではありません。通でもなければ、都会人でもありません。

それをわきまえた人であれば、その人自身の心の中で、少年趣味だろうが、少女趣味だろうが、少年趣味の男性趣味だろうが、好きに抱えていればよろしいです。


【子供向けという再定義。】

ここで振り返ってみると、1960年代に美青年が美青年を愛する小説を発表した森茉莉は、いい中年でした。

1970年代に同趣向の漫画を発表した女性たちは、未婚ではありましたが、20代後半の成人でした。漫画家としてのキャリアも、新米というレベルではありませんでした。

にもかかわらず、何かの拍子に「少年趣味の男性に憧れるのは、子供の女性だ」と見なされてしまいました。

「少年趣味の男性趣味」は、乙女と称するモラトリアム女性に限られた趣味だと見なされてしまいました。

原因のひとつは、「結婚していない女は一人前とはいえない」という差別的発想で、これを女性自身が内面化していたことによります。

そして、同人誌即売会(の一部)と同じ論理ループを発生させます。

「二次創作は公開しにくいから→公開しにくい主題を描くために二次創作という手段を取る」

自分は子供だから少年趣味の男性に憧れたので、以後も「少年趣味の男性趣味」を保ち続けるために、子供を称し続け、マナー違反をし続ける。

……とすると、問題は「少年趣味の男性趣味を抱くのは、子供だけである」と定義したことになります。

何度も申しますが、1970年代に『風と木の詩』を高校生で読んだ人は、1980年代には成人しています。

にもかかわらず、迂闊に「今の子供はこういうのが好きなのか」というようなことを言った人が、少年趣味の男性趣味者へ、子供らしい振舞いをさせる理論的背骨を与えたことになります。




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Misha

Author:Misha
スマホ時代にさからう評論系長文ブログ。冷静に通読できる大人の読者様を想定しています。

「若い人」に直接呼びかける文章は、18歳以上のヤングアダルト対象です。高校生は受験を最優先してください。

書く人は、新旧とりまぜて映画とアニメを見ながら文芸書に取りくんでみたり、昔の漫画を思い出したり、お国の先行きを心配したりしております。

記事中の色つき文字は、映画中の台詞・挿入歌からの引用です。あらすじは、あまり申しませんので、楽しみに御覧ください。取り上げる作品は、暴力・エロスなど特殊な要素を含んでいることもあります。

ときおり、耽美・BL・同人・LGBTに言及します。いずれの分野からも、偏見と差別と自虐がなくなるといいと思っております。

「二次創作の責任を二十四年組に押しつけるな」「実在同性愛者に甘えるな」が基調です。

全体として、二十四年組ファンが社会学者に物申すという珍しい構図。一部勘違い同人を叱責することによって全体を守るという意図もあり、ときにかなり辛口です。

記事は時々予告なく手直し・削除・分割しております。保存は個人的閲覧の範囲で、お早めに御随意に。転載・改変利用は固くお断り申し上げます。

解題


Casketとは、玉手箱。

でも検索すると棺桶がならびます。来世まで持っていきたい好きな作品の記録帳とご理解ください。