【1958年大映、市川崑『炎上』】

  19, 2015 12:33
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観ると良い映画。

格調高い文芸作品。笑えるとか泣けるとか萌えるとかそういう娯楽要素はバッサリ切って捨ててあります。

三島由紀夫『金閣寺』が原案で、取調室における回想として始まる、犯罪者の内面描写です。冒頭に「これは架空の物語である」旨、ていねいな注意書きが示されます。お寺の名前は「しゅーかく寺」に変更してあります。

被差別が重要なモティーフになっており、いわゆる差別用語に傷つく若者たちの姿が直截に表現されています。同情的ではないところが市川流。

構図の美しさとともに、間合いによって人物の心理を表現する技が印象的です。

中盤は「仲代達也が主役を食っちまう」の巻。生まれながらの色悪というか、フィルム・ノワールそこのけというか。でも市川雷蔵は誠実な表情で受け留めます。

女性の狡猾さ・男女関係の打算ぶりを指摘する辛辣さも、フランス映画を寄せ付けません。

「男のお友達同士って、見ててもええ気持ちのもんやわ。うらやましいわ」

言わんでもええことを言って自己主張したがるのが、間にはさまれた女ですな。

若い女優たちも上手いものですが、脇を大物が固めており、演技というものを知る勉強にもなろうかと思います。北林谷栄(トトロのおばあちゃん役)が圧巻です。

内容については、やっぱり差別する人がいることが悪いのです。みんな鶴川ちゃんみたいだったら良かったのです。母親がもっと図々しく生きる人だったら、主人公も追いつめられなかったのです。和尚はなんだかんだ言って、女と切れてないのです。

でも、お母さんはお母さんなりに心ばえが美しい人だっただけなのです。和尚だって、お腹の大きい女性を無一文で追い出すほど非情ではなかっただけなのです。

……というあたりをきちんと映し出しつつ、それでもやっぱり犯罪の実行に至ってしまう人には、どっか甘えた部分があるというあたりを外さないところが市川流で、この「良薬は口に苦し」というか、苦すぎてむしろ爽快という読後感は『犬神家』にも通じるよな、などと思い出すのでした。

(映画の「観後感」って言葉がないのは不便ですね。)

差別用語の問題があって、もはやテレビ放映も再上映もできない作品かとは思いますが、戦中・戦後の風俗描写の貴重さと併せて、長く残されるべき名作だと思います。

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