【パゾリーニ、1964年『奇跡の丘』】

  20, 2015 12:40
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あるいは、マタイによる福音書。

原題がそのまんまである通り、大ロケーション敢行・大量エキストラ投入によって、イエス誕生から受難・復活までを真正面から描いた大叙事劇。モノクロ。

エピソードの数々は、キリスト教徒にとっては一般教養以前の基礎の基礎なので、「ここは○○の街」なんてナレーションも字幕も入りません。

その今さら映画化するようなものでもないことを、あえて撮ってみたのは、ルネサンス絵画や絵本などを通じて、すでにでき上がっているイメージをぶち壊すくらいの勢いで時代考証を施し、リアルに徹してみたということのようです。砂っぽい荒地が舞台なので、一見地味ですが、すごく手が込んでます。吹きわたる風の音がリアルで強く、撮影も大変そうです。

やや高踏派というか、かまえた感じがパゾリーニ節なのですが、なにせリアリズムで押してくるので次第に圧倒され、飲み込まれていきます。

若きマリアの美しさは、従前から持っているイメージを損ないません。成長後のイエスの顔立ちも美しく、弟子たちもそれぞれに良い顔です。でもファンサービス的演出はなく、笑いツボもお涙頂戴もありません。

観客はタイムマシンで当時へ連れて行かれ、その土地の住人の一人として奇跡を目の当たりにする思いです。やがて舌鋒火を噴くイエスの演説に胸が迫ります。

ユダの裏切りも、ゴルゴダの丘も、老母の嘆きも克明に描かれます。すべてが誠実で真摯です。

もちろん処女懐妊の真偽の詮議などできません。

が、イエスという人物が自分に嘘をつかず、権力に対抗し、その見返りとして金銭も快楽も要求しなかった、本物の宗教家であったことが知られます。

異教徒としては感情移入を自戒したほうがいいかなって気分にもなりますが、これはキリスト教徒の誇りが高らかに謳い上げられた傑作……ってことで良いのだろうと思います。

全編を通じて、バッハとモーツァルトが響いており、そこだけ時代が合ってないだろうと突っ込みたくならないこともないですが、台詞が少なく、半分はその音楽を聴くための映画にもなっています。

『メディア』では日本の長唄が使われていて呆気に取られましたが、こちらではアメリカ式のゴスペルが使用されています。

既成の音楽を利用するパゾリーニ作品は、すごい金かけてるはずの割にやや青臭いというか、学生の自主制作映画みたいなところがあり、時おり天然ボケみたいな要素もないではありません。

また、そこが良いです。


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