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やおい趣味で読み解くドラマ『清盛』。

今更だなァと思いつつ。

やおい趣味の要点は「男性社会における『負け犬』を『女』と見なし、これを可愛がることで女性が自己満足と優越感を同時に得る」というものだ。

時代とともに暴力描写が好まれなくなり、表現がマイルド化する傾向にあるが、本質はあまり変わらない。

( gay は自分を「女の代わり」「女の仲間」と見なされることを嫌うので、この趣味を非常に嫌う)

人間は自分に似たものを可愛がる。(やおい趣味に基づく創作物がBLだが)BLでなくても女性が書いた作品には「料理・育児がうまい男性」「女心の機微を理解してタイミングよく声をかけてくれる男性」などが登場する。

可愛がることがなぜ優越感を生むのか?「あなたはそれでいいのよ」と存在の許可を与えることになるからだ。それが自分に似たものであれば、自分自身を許すことになるから、自己満足をも生む。

許可を与えられる者より与える者のほうがエライ。許可を与える者は、与えることによって「上から目線」に立つことができる。自分に許可を与えれば、自分自身の主人であり得る。

だからやおい的世界観においては「女はエライ」という主張と「男は弱い・可愛い」という主張が両立し得る。(独身女性が男二人を祝福するという描写がBLには時々ある)

ところでドラマ『清盛』における名セリフの数々を挙げてみる。

「女が男を支えているのよ!社会に本当に必要なのは女性パワーなのよ!」
「私、一生あの人についていくって決めたわ」
「あの人がいなくなったら私どうしたらいいのか……怖いわ」
「どうせお父さんが元気でいる限り、私の自由なんて無いんですからね!」

上から順に義朝・清盛・後白河院・頼朝の迷セリフを女性化したものだが、まるで違和感がない。『清盛』における男性キャラクターの世界観は、非常に女性的である。一方で女性キャラクターは、
「遊ぶように夢中で生きましょう」
「住吉明神のお世話にはなりません」
と毅然としている。伝統的な価値観からいうと、男と女が逆転している。

本当は女は強い。一人でも生きていける。
本当は男は弱い。二人三脚でなければ生きていけない。

この主張は1970~80年代だったらウケた可能性がある。そのようなことが言われ始めたのがあの頃だった。同時期にやおい趣味が台頭し、全盛を極めたといっていいだろう。

当時は日本女性の社会進出が端緒についたところで、セクハラも多かったので、「本当は男(の肉体)だって女と同じでしょ?」という主張が皮肉の鋭さを持ち得た。いまでは女性の状況はいくらか緩和されたので、やおい趣味も「女性の余技・娯楽」としての性格を強めている。というかそのようなものとしてしか認められない。

したがって「女は強い・男は弱い」というテーマは、今さらやられても斬新を通り越して逆に古い。現代に受け入れられるのは、どう考えても「男は(従来通り)強さと賢さ・自制心を備え、同じものを女性も備えていて、助け合うことができる」という人物設定で、ヒットした洋画も『篤姫』もそれで出来上がっている。まして篤姫は「新時代を受け入れつつも、徳川の誇りを守る」を打ち出して受け入れられた。

脚本家のプロフィールはいまだに公開されていないが、「世のため人のために王家の専制を倒す」という(ベルばらかとツッコミたいような)単純な階級闘争史観の古臭さとあわせて、女権意識が妙に古臭い。 ※だから女性受けを狙って男性が書いてスベッた、という可能性もある(-_-;)

ともかく制作陣と俳優は脚本の意を汲み取り、おばかで泣き虫な清盛を生々しく真正面から描くことに成功した。それはそれでよい。視聴者が求めたものと大きく違っただけだ。

人間は自分に似たものを可愛がる。脚本家は「愚かだが一生懸命な清盛」を可愛いと思いながら書いたように見受けられる。視聴者も同じように「可愛い♪」と思ってくれると踏んだのだろう。「萌え」を共通の前提にする、いわゆる同人の手法である。

が、世間はもう少し単純だった。「大人は汚い」「だから私も大人にならない」と叫ぶ清盛に「ついて行けない」と判断した。可愛いとは思ってくれなかった。男性が女性的であることに異様さを感じ、理屈がむずかしいと感じ、「理解できない」と判断した。

可愛いと思った人、面白いと感じた人は、今でもついていっている。「中二病」と茶化しながら毎回ブログを書く人は、承知のうえで「つきあってやらァ」と思っている。

結論? もはや課金放送にするべきだ。わかる奴だけついてこいという制作態度なのだから。(ほんらい創作物ってそういうものだし)
視聴人数の把握も確実になるだろうから、「(必ずしもテレビで視聴するとは限らない時代に)モニター数字が何を表しているのか」で右往左往する必要もなくなるしね。
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Misha

Author:Misha
スマホ時代にさからう評論系長文ブログ。冷静に通読できる大人の読者様を想定しています。

「若い人」に直接呼びかける文章は、18歳以上のヤングアダルト対象です。高校生は受験を最優先してください。

書く人は、新旧とりまぜて映画とアニメを見ながら文芸書に取りくんでみたり、昔の漫画を思い出したり、お国の先行きを心配したりしております。

記事中の色つき文字は、映画中の台詞・挿入歌からの引用です。あらすじは、あまり申しませんので、楽しみに御覧ください。取り上げる作品は、暴力・エロスなど特殊な要素を含んでいることもあります。

ときおり、耽美・BL・同人・LGBTに言及します。いずれの分野からも、偏見と差別と自虐がなくなるといいと思っております。

「二次創作の責任を二十四年組に押しつけるな」「実在同性愛者に甘えるな」が基調です。

全体として、二十四年組ファンが社会学者に物申すという珍しい構図。一部勘違い同人を叱責することによって全体を守るという意図もあり、ときにかなり辛口です。

記事は時々予告なく手直し・削除・分割しております。保存は個人的閲覧の範囲で、お早めに御随意に。転載・改変利用は固くお断り申し上げます。

解題


Casketとは、玉手箱。

でも検索すると棺桶がならびます。来世まで持っていきたい好きな作品の記録帳とご理解ください。