【グランシップ静岡能:頼政&吉野天人(天人揃)】

  13, 2015 10:57
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天女で思い出した、1月24日の公演の思い出。

自衛隊ブラスバンドが出演する県民音楽祭と日取が重なりまして、「船」の横に長蛇の列。

音楽祭の開催を知らずに行ったので、一瞬「最後尾につくべきか?(汗)」と迷いましたが、能舞台を出す中ホールは、どんなに頑張ってもあんなに入りません。

「これは別のイベントだな」と判断し、列の脇を正面玄関へ。無事に入れました。

ロビーでは「観世宗家クッキー」とか売ってました。いろいろ試してるみたいです。ゆるキャラが登場しないことを祈ります。もし登場したら、家康くんと相舞してください。各地の武将キャラを誘って五番立てにしましょう。ひこにゃんは喜多のものだって言われるかもしれないので、立合能がいいかもしれません。

閑話休題。

お客様には和服を着た女性が多く、華やいでいました。皆様それぞれに観世水であったり、業平菱であったり、松であったり、能楽らしい文様を厳選してお召しでした。

見所の着物については、他の公演で敦盛が出たときに揚羽蝶の帯を締めた方がいらして素敵でした。能楽鑑賞の、もう一つの楽しみです。

なお、ドレスコードはありません。ジーンズ履きでも良いです。若い方も能楽だからと構えずにお出かけください。

で、……まさかのホール能『頼政』。

公演告知が出たときは、二度見しました。でも静岡は頼政ゆかりの地でもあります。夫人の「あやめ御前」の出身地が伊豆だからです。あやめ祭りもやってます。

山科は、小柄で何を着てもよく似合い、声も上品で、とても素敵なシテ方です。緑色の水衣は鏡松とかぶるかと思いましたが、舞台へ入ってみると松の精霊のようでもあり、脇方の着た茶色の水衣ともよく響きあって、清浄の気に満ちておりました。

お二人の声の美しさに酔ううちに、短いほどに感じられる充実した前場でした。

後場の法体にて甲冑を帯した姿は白が貴重で、さわやかな輝きを放ち、ホール能の開放感を意識なさったのだろうと思われました。白刃骨を砕く痛みを忘れ得ず、深い恨みを抱えて現れた怨霊なのですが、そのことを恥じ入る心もあり、読経に感謝する心もある。奥ゆかしい歌人の姿でした。

主題は頼政の負け戦なんですが、中身は源氏方の奮戦を描いているわけで、じつは血沸き肉踊る勝修羅の要素も持っているのでした。地謡方も男盛り揃い、たいへんな熱演で、宇治川の水の逆巻く勢いと人馬の叫喚が伝わって参りました。

鬘桶に座りっぱなしの頼政は、指揮者のような立場になっているわけで、シテの所作と地謡が互いを高めあう、交響曲の感動があったように思われます。

目付け柱脇で万感の思いを込めて振り絞られた「埋もれ木の」は胸に迫りました。ガクリと膝をついた山科の姿は美しかったです……去年は俊寛でした。ともづなに取りつく際には水の冷たさが感じられて身震いさせられました。

うまい人は、何がうまくて「うまい」と感じさせるのか。圧巻の「ホール頼政」でした。

……見所は、ちゃんとついて行ったと思います。

仕舞は無かったです。去年は祥六の『砧』がすごかったです。客席はやや緩んでいたかもですが、仕舞の時は、だいたいそんなものかもしれません。

今回は、後半が「天人揃」なので、仕舞の余裕はなかったのかもしれません。「楽屋すごいことになってるんだろうな」と思いつつ、ロビーでのんびり過ごすこと十数分。

前場の小面がとても可愛かったです……若い女性を表すシテと、中年男性そのままの脇方が目を見交わして「見もせぬ人や」というのは、花の香に乗って清潔なエロスが匂い立つ名場面。

「揃」なので「友びとをともないて」という詞が追加されていたと思います。橋がかりに天人がそろった時には頬が緩んでしまいました。か、可愛い。一斉に回ると、華やかな長絹の背に艶やかな黒髪が下がっているのが並びます。きゃー。

能楽堂は歓声を上げるところじゃないんですが、たまにはそんな気分にもなります。

舞の笛は、たぶん盤渉調。半音上げた編曲みたいなもので、常よりさらに陶酔感が増します。

シテは雅楽の楽器をあしらった長絹を着けており、耳には確かに能楽四拍子が聞こえているのですが、同時に笙・ひちりきの音も響いてくるように思われました。

所作のほうはそろっていないというより、それぞれに扇や袖を返すタイミングが違うのです……笛の鳴り始めで返すか、笛を聴いてからクルッと返すか。

一人ずつなら個性です。クラシックバレエのように揃うのは、日本的美学としてどうなんだという考え方もでき、観客がそれぞれに好みの役者を見つける機会としても良いと思います。

問題は、面を掛けているので、パンフレットを見ても誰がどの先生か分からないことです。(皮肉じゃありませんってば。)

また咲く花の雲に乗って、五人が幕へ入っていく際には、ハンカチを打ち振って「また来てねーー!」って気分でした。

埋もれ木と爛漫の桜。見事な番組だったと思います。

囃子方も名手をお迎えできて、有難い限りでした。おっきい小鼓方と、ちっちゃい大鼓方は、見た目に面白いコンビだな、とちょっと思いました。林の太鼓は、いつも清新の気に満ちて鋭いです。

出演者が多ければ、楽屋の人数も必要なわけで、本当によく企画してくださり、実現してくださったと思います。能界の先生方にも、グランシップ関係者の皆様にも、あらためて深く御礼申し上げます。







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