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【同人むかしばなし5 ~アニパロ小説の起点。】


1970年代から1982年にかけて、いわゆるコミケで流行した、いわゆる二次創作の下敷きとなったアニメ番組は、いくつか挙げられていますが、いずれもテレビオリジナルです。つまり原作漫画の単行本がよく売れたので、数年後に動画化されたというものではありません。

1970年代の「漫画市場」に、漫画を原作にしていないテレビオリジナルアニメの関連小説が出品されたという話は、いかにも奇妙です。

これは、もともとアニメファンではない人が、アニメファンの好奇心を営利目的で自分本位に利用したものであって、ファンサービスでもなければ、ファン同士の交流でもなかったと主張する声があります。

「私自身が1989年に参加した時には、最初から金目だったから、昔の人もそうだったに違いない」と、言いたければ言っても良いです。ただし、この説には難点があります。


【作家と顧客の不在。】

1975年に全国の漫画同好会が集結したとき、もれなく小説同人とアニメファンを引き連れてきたということはないはずです。

招待状を受け取ったわけでもないのに、勝手に上京した小説同好会のメンバーが、同様に招待されてもいないアニメファンが早くもコスプレ姿で漫画市場を埋め尽くしたのを見て、「私こいつらを利用してかせいじゃおう!」と思うことは、この時点では不可能です。

そもそも、ガリ版刷りした藁半紙を手で折って、ホッチキス留めで100部がやっとという時代に、大きな利益は狙えません。


【極少数派。】

1979年に初放映されたテレビオリジナルアニメ『機動戦士ガンダム』のファンが、一万人ほども集まって監督を勇気づけたことが語り草になるくらいですから、それ以前のアニメファンの規模、集まり具合というのは、推して知るべしです。

1974年に初放映されたテレビオリジナルアニメ『宇宙戦艦ヤマト』は、1975年の秋に再放送されると、全国的ブームを巻き起こしたと伝えられますが、その映画化は、何度も公開されていながら、2001年の宮崎駿『千と千尋の神隠し』を上回る成績を挙げていないわけです。

ありていにいって、アニメファンなんて微々たるものだった時代があったのです。だからこそ、最近の隆盛ぶりが驚きをもって報道されるのです。

そして、コスプレした人々は、その姿を他人に撮影させて「一回いくら」で稼ごうとしたわけではありません。

コスプレする技量のない人は、アニメキャラクターの似顔絵を掲載した「同人誌」を、ガリ版刷りのホッチキス留めで発行したことでしょう。それを最初から何部発行したと思いますか? 箔押し表紙をつけて、三千部ですか?

せいぜい、50部。それが、おずおずと「漫画市場」に出品されたとしたら、なぜでしょうか。なぜアニメファンは、独自に「アニメマーケット」を立ち上げなかったのでしょうか?

漫画市場の真似をして、全国のアニメ同好会に檄文を飛ばそうにも、受け取る人がいなかったからと考えることができます。漫画同好会にそれが可能だったということは、前もって各団体代表の住所氏名が知られていた、つまり既に交流があったということです。

すなわち、1950年代以来の蓄積を誇る漫画同好会(の人脈)に対して、テレビオリジナルSFアニメのファンなんて、本当に東京の大学生の一部における、アングラ中のアングラ趣味でしかなかった時代があったのです。

いっぽうで、漫画市場の主宰者は「明日の漫画を考える批評雑誌」(漫画ではなく文章をまとめたもの)を熱心に発行し、自ら漫画市場へ出品していたそうですから、その横で、アニメファンが「明日のアニメを考える批評雑誌」を出品することは、わりと自然です。

最初の時点で、極少数派であることを自覚していたアニメ派が、なにも「漫画市場をエロい小説で乗っ取ってやるぜ」と考えていたわけではないことは、言えるだろうと思います。


【ループの起点。】

アニメ番組を知らない人が「自分の頭の中にインプットされていないキャラクター名を用いて小説を書いてみよう」と思うことはあり得ません。アニメ番組を知らない人は、小説を読まされても、それを「パロディである」と認識することができません。

「だから、エッチな小説を読めることだけが目的だったので、アニメファンじゃないって言ってるでしょ」というのでは、話が廻っています。

そもそも、おそらくはゲイ雑誌を参考に、同人作品を勝手に「過激」なものにしてしまったのは、1980年代の同人自身です。過激な翻案ものだから、公式発表できないから、公式発表できないような過激な翻案ものの発表場所にする。

無限ループを廻すことに決めてしまったのは、1980年代同人です。でも、アニパロ同人誌といえども、それほど過激でもないという時代があったのです。

だから、もっと前に進化が始まる「起点」があったはずです。誰かが最初に「アニメを小説の素材にすること」を思いついたはずです。


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Misha

Author:Misha
スマホ時代にさからう評論系長文ブログ。冷静に通読できる大人の読者様を想定しています。

「若い人」に直接呼びかける文章は、18歳以上のヤングアダルト対象です。高校生は受験を最優先してください。

書く人は、新旧とりまぜて映画とアニメを見ながら文芸書に取りくんでみたり、昔の漫画を思い出したり、お国の先行きを心配したりしております。

記事中の色つき文字は、映画中の台詞・挿入歌からの引用です。あらすじは、あまり申しませんので、楽しみに御覧ください。取り上げる作品は、暴力・エロスなど特殊な要素を含んでいることもあります。

ときおり、耽美・BL・同人・LGBTに言及します。いずれの分野からも、偏見と差別と自虐がなくなるといいと思っております。

「二次創作の責任を二十四年組に押しつけるな」「実在同性愛者に甘えるな」が基調です。

全体として、二十四年組ファンが社会学者に物申すという珍しい構図。一部勘違い同人を叱責することによって全体を守るという意図もあり、ときにかなり辛口です。

記事は時々予告なく手直し・削除・分割しております。保存は個人的閲覧の範囲で、お早めに御随意に。転載・改変利用は固くお断り申し上げます。

解題


Casketとは、玉手箱。

でも検索すると棺桶がならびます。来世まで持っていきたい好きな作品の記録帳とご理解ください。