記事一覧

【同人むかしばなし11 ~寛容な青田。】


尾崎紅葉(以前)から、創作同人が出版界の青田であるのは当たり前です。

が、日本の創作同人界には、昔ながらの文芸ファンの想像もつかないことが起こりました。

漫画市場に、なぜか漫画ではなく、アニメを素材とした小説が出品され、そこから新しい漫画の才能が育ったのです。


【義務教育と鬼六の直結。】

1970年代に高校生で同人活動を開始した人は、1980年代には成人しています。成人が成人向け雑誌・単行本を購読し、自主制作の参考とすることは、問題ありません。

でも、学校教育しか受けておらず、教科書以外の文芸には親しまずに来た若年者が、漫画をきっかけに耽美派の世界を知って、そのうちの一部がどこから聞いたか「漫画市場」を訪れると……

そこで既に取引されていた「あらゆる意味で耽美派ふうのアニパロ小説」という奇妙なものの存在を知ったから、読み書きできることと、変遷の結果としてのアニパロが直結してしまい、その間にあったはずの本来の耽美派の知識がすっぽ抜けている。

これが「私は漫画しか読んだことないけど、アニメを見て小説を書いたわ!」という訳の分からない主張になるわけです。

確かに浅薄な、今ふうに言うと脊髄反射的な模倣がくりかえされたのですが、逆にいえばそれだけのことでしかありません。

つまり、家庭に問題があるかどうか、トラウマがあるかどうか、トランスであるかどうか、詮索するほどのことでもなかったのです。

だいたい、本当に家庭に問題があったら、コミケへ行って遊んじゃいられません。


【コピーのコピーの漫画化。】

1981年のコミケで最初のアニメブームが起きたのは、すでにその時点で「二次創作」の技法が完成していたからです。

漫画にしろ、小説にしろ、出展に先んじて、原稿を仕上げ、製本所へ送らなければなりません。数ヶ月を要するでしょう。念のため、当時は漫画の台詞も、小説の清書も、すべて手書きです。

ということは、さかのぼって1980年には「だいたい分かったから、私も書いてみよう」と思う出展希望者が大勢誕生していたわけです。

ということは、その時点で、すでにかなり多くの人の手に「お手本」が行き渡っていたことになります。当然ながら、そのお手本を書いた人は、1979年の時点で書くことを決意し、印刷所を見つけていたはずです。

1979年というのは、今に至るまで影響力を誇る巨大ロボットアニメ番組が初放映された年であり、そこには敵役として、妙齢の美男が登場していたものです。

じつは、それに先立つ時代にも、少女漫画の登場人物をほうふつとさせる美男の登場するロボットアニメが存在したのです。

したがいまして、1983年に放映が開始されたスポーツアニメ番組を素材とする二次創作が空前のブームを起こすことができたのは、当然です。

もはやこの時点で、コピーのコピーのコピーのコピーのコピーです。

そしてこのあたりから、漫画化の傾向が顕著になったと思われます。

漫画市場だったところが、アニメ関連小説に乗っ取られたようになって、さらにそれを新世代の漫画同人が漫画化するという、歪んだループが発生し、今度は漫画としての表現が高度化するとともに過激化するという、上昇か下降か分かりませんが、急回転スパイラルとなったのです。

この背景には、単純に漫画そのものの成長があったでしょう。

漫画をスラスラと読みこなすには、せめて小学4年生くらいの識字能力が必要です。

1975年に学童向け雑誌で連載を開始した『ドラえもん』(藤子不二雄・当時)を、10歳のときから模倣しながら成長した子どもは、1983年には18歳に達し、早い人ならプロ漫画家への第一歩を踏み出します。

並行して高橋留美子・あだち充などの活躍もあって「作家になりたい」という若者よりも、「漫画家になりたい」と思う若者のほうが増えたという、切り替えの時期だったかと思われます。

この頃までのテレビオリジナルSFアニメというのは、アメコミ調の絵柄を踏襲しており、それほど華奢でもなければ頭身バランスの悪いものでもありませんでした。

いっぽうで、1980年代初頭に竹宮恵子『地球へ…』が、少年漫画として少年誌に発表されており、この頃にアニメ映画化も成されました。そこに登場する「シュッ」とした青年を見て、カッコいいと感じた男性読者・観客も多かったことでしょう。

ありていにいって、1983年頃から、新世代の漫画同人の絵柄が、男女を問わず「高橋陽一のダイナミズムと、竹宮恵子の繊細さを足して2で割って、小松原一男を掛けたら関節はずれた」というものになって……現在に至ります。

世の中には、今ごろになって「最近の少年漫画は女性向けで面白くない」なんて言う人がいますが、最近どころか、1983年から変わっていません。

ついでに言うと、貿易黒字時代を背景に、子どもがスクリーントーンという比較的高価な特殊効果材を多用するようになった結果、背景を描く技術が極端に劣化し、漫画が水平線を見失って、現在の惨状があります。


【似ていない二次創作漫画。】

男性向け原作漫画(またはそのアニメ版)を知らない人が、パロディとしての耽美派小説だけを読んで、脳内にイメージを描き、それをもともと自分が身に着けていた(少女漫画ふうの)技法で漫画にすると?

原作と共通しているのは登場人物の名前だけ、という漫画作品ができ上がります。

どうも、こういうことが行われたのが1983~1985年頃だったと思います。


【コンテンツ史のブラックボックス。】

一般読者の好むと好まざるとに関わらず、日本の創作界は、ある時期からアニパロによって洗練されて来ました。

同人作品は互いに似ているので、各時代ごとに模倣の起点となった名人がいたはずで、これをつないでいけば、近代文芸史に匹敵する現代同人史を書くことができるはずですが……

今や日本の国策とも言うべき漫画・アニメ、さらにはライトノベルの歴史を後づけるにあたって、大きなブラックボックスが置かれたままであるのは、勿体ないような気がしています。


Related Entries

SEARCH

Profile & Caution

Misha

Author:Misha
スマホ時代にさからう評論系長文ブログ。冷静に通読できる大人の読者様を想定しています。

「若い人」に直接呼びかける文章は、18歳以上のヤングアダルト対象です。高校生は受験・就活を最優先してください。

書く人は、新旧とりまぜて映画とアニメを見ながら文芸書に取りくんでみたり、昔の漫画を思い出したり、お国の先行きを心配したりしております。

映画評は、アップロードする以上は「下げる」ようなことは言わないことにしております。あらすじもあまり申し上げませんので、楽しみに御覧になってください。記事冒頭の色つき文字は映画中の台詞・挿入歌の歌詞からの引用です。

なお、取り上げる作品は、暴力・エロスなど特殊な要素を含んでいることもあります。

ときおり、耽美・BL・同人・LGBTに言及します。いずれの分野からも、偏見と差別と自虐がなくなるといいと思っております。

「二次創作の責任を二十四年組に押しつけるな」「実在同性愛者に甘えるな」が基調です。

全体として、二十四年組ファンが社会学者に物申すという珍しい構図。一部勘違い同人を叱責することによって全体を守るという意図もあり、ときにかなり辛口です。

記事は時々予告なく手直し・分割・削除しております。保存は個人的閲覧の範囲で、お早めに御随意に。転載・改変利用は固くお断り申し上げます。

解題


Casketとは、玉手箱。

でも検索すると棺桶がならびます。来世まで持っていきたい好きな作品の記録帳とご理解ください。