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創作物への感情移入とは。


たとえば児童向けアニメ番組において、「せっかく妖怪を退治してまで描きあげた写生画が、くしゃみ一発で台無し」

というのは、学童である主人公にとっては残念無念の大問題なわけですが、視聴者としては笑うところです。制作側も、それ以上を意図しておりません。

「せっかく描いたのに、こんな結末にしてしまうなんて主人公が可哀想。子どもの心が分かってないわ。児童虐待よ。テレビ局に文句いってやる!」

というのは、パワークレイマー認定でしょう。

そもそも笑いものにされる・見世物にされるというのが「キャラクター」の仕事です。

鑑賞者は、物語の途中では「がんばれ。妖怪に負けるな」と主人公に感情移入して視聴するわけですが、最後の落ちの瞬間に「自分のことじゃなくて良かった」という境地へ戻ってしまうわけです。

これが「また描けばいい」程度の話であれば、現実問題としても笑って済ませる他ありませんが、現実において笑って済まない問題、すなわち暴力や差別となると、鑑賞者の感情も変わって参ります。

【映画の場合。】

アクション映画は、勝者と敗者が存在するのが物語上の必然です。どちらが勝つかは観客も前もって知っています。

主人公が常に勝つ以上、逆にたいした作戦もなく襲いかかってきては、主人公チームに撃退されておしまい、という損な役回りも存在します。

これが同じ日本人同士で、正義の味方と悪の軍団なら、視聴者にとっては「悪い仲間に入っちゃいけないよ」という教訓ともなりますが……

この悪役に特定の民族や団体が割り当てられていると、自分もそこに属すると思う人から「見ていられない」という苦情が発生するわけです。

西部劇におけるインディアン、アメリカ製戦争映画におけるドイツ軍、一部のアニメ映画における性的マイノリティなど、今では起用されなくなった悪役がいくつか存在するかと思います。

女性も社会的弱者なので、悪役を割り振らないでほしいところですが、人口の半分に割りふる役が限られるというと物語づくりも不便ですし、逆に「悪役をカッコよく演じる自由」というのもありそうでもあります。

【BLの場合。】

いわゆるボーイズラブについては、女性読者が二人の男性キャラクターのどちらに感情移入するのかという愚かしい議論が起きたことがありました。

創作物に対する一般的姿勢として「じつはどちらにも感情移入していない」が正解だろうと思われます。

とくに、泣かされる側・恥をかかされる側に対して、鑑賞者は「金を払って見物する・笑いものにしてやる」という立場にいるはずです。

書籍を購読するにあたって、実際に金銭を支払っているのですから、それは最初からそのための娯楽作品であるに決まっています。

ここへゲイ団体から「同性愛を見世物にするな」という苦情があると、大問題なわけですが……

BLが根ざしているものは、森鴎外がフィクションの形で報告したような、ストレート男性同士の青春期におけるパワハラです。先輩・後輩の立場の差を利用した性的悪戯です。

【世界観の繰り返し。】

実際の犯罪捜査現場では、私立探偵が立ち合わせてもらったり、証拠品を見せてもらったりといったことは行われていないでしょう。

警察が民間の手を借りなければ犯人を検挙できないようでは「なんとか泥棒」と呼ばれてしまうはずです。

シャーロック・ホームズは自分がイレギュラーな存在であることをわきまえており、その上で私立探偵の存在価値を社会に認知させ、職業として成立させようとしていました。

その後の創作物における「東京から来た探偵です」などというのは、ホームズが“警察とともに犯罪捜査にあたる探偵”という職業を樹立したことになっている世界の子孫というわけです。

例えて言うと、トールキンが創出した物語世界を下敷きに、ホビット族の子ども達の生活ぶりを、トールキンではない作家が書いているようなものです。

【で、BLの場合。】

上の例と同様に「ストレート男性間において、惚れたはれたが起こり得るフィクション世界」を下敷きにした、その世界の子孫たちの生活ぶりを、森鴎外でも井原西鶴でもない作家が書いているもの、ということができるでしょう。

これが「現実のゲイとは別」の意味です。

「パラレルワールド」という発想は、SF的なもので、SFに慣れ親しんでいない旧世代には理解しにくいのですが、若い世代には受け入れやすいものでしょう。

SFと、トールキン的ファンタジーの興隆は、時期的に一致しており、「どこかにある世界」を再生産したり、鑑賞したりすることが、実人生で挫折した者の逃避なら、現代の観客は、あらかた挫折組ということになります。

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Misha

Author:Misha
スマホ時代にさからう評論系長文ブログ。冷静に通読できる大人の読者様を想定しています。

「若い人」に直接呼びかける文章は、18歳以上のヤングアダルト対象です。高校生は受験を最優先してください。

書く人は、新旧とりまぜて映画とアニメを見ながら文芸書に取りくんでみたり、昔の漫画を思い出したり、お国の先行きを心配したりしております。

記事中の色つき文字は、映画中の台詞・挿入歌からの引用です。あらすじは、あまり申しませんので、楽しみに御覧ください。取り上げる作品は、暴力・エロスなど特殊な要素を含んでいることもあります。

ときおり、耽美・BL・同人・LGBTに言及します。いずれの分野からも、偏見と差別と自虐がなくなるといいと思っております。

「二次創作の責任を二十四年組に押しつけるな」「実在同性愛者に甘えるな」が基調です。

全体として、二十四年組ファンが社会学者に物申すという珍しい構図。一部勘違い同人を叱責することによって全体を守るという意図もあり、ときにかなり辛口です。

記事は時々予告なく手直し・削除・分割しております。保存は個人的閲覧の範囲で、お早めに御随意に。転載・改変利用は固くお断り申し上げます。

解題


Casketとは、玉手箱。

でも検索すると棺桶がならびます。来世まで持っていきたい好きな作品の記録帳とご理解ください。