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【ところで、自費出版だけで食っていくとは?】


一ヶ月の生活費を、20万円としてみましょう。半年で120万円です。

自費出版一冊の売値はいくらでしょうか。一万円でしょうか。だったら購読者は120人必要です。

一冊千円なら? 

あなたの作品の前に、1200人のお客様が並んでくださいますか?

幸いにして並んでくださったとしても、一ヶ月分の家賃・光熱費・通信費・食費・税金・国民健康保険税などとして20万円を使い果たしてしまっては老後の貯えが残らないので、本当は2400人のお客様に並んでほしいところです。

年二回の即売イベントで、4800人のお客様から、千円ずつ。

合計480万円の収入を得れば、来年には所得税を納めなければなりません。もともと余裕のない計算なので、来年には生活費と貯金に加えて、その分のお客様にも並んで頂く必要があります。

うまく事が運んで、翌年に500万円を得たとすれば、その翌年の所得税も増額されます。ツイッターで「売れた、売れた」と喜びの報告をすれば、マルサが知るところとなるでしょう。

ところで純文学というのは、基本的には実生活に根ざした、リアリズム重視文芸です。中年になってから、少年少女時代を思い出して、地元に伝わる祭礼行事を題材に小説を書き、受賞するということはあります。

賞金および印税によって臨時収入を得られるでしょうが、生活のために同じ話をもう一度書くというわけには行きません。少年少女時代を生き直して、新しい実生活の記憶を得るということもできません。作家というのは、演奏家とちがって、そこが不便です。永井荷風がこぼした通りです。

いっぽう世の中には、似たような私小説的な作品を何度も書いているのに、ノーベル賞候補という人もいます。異性の人生を調べて、現代の純文学というべき作品を仕上げてしまう人もいます。

もし、あなたが毎年500万円を得るために、書く内容に困って、空想的なポルノグラフィを選ばざるを得なくなったのであれば、あなたは小説家になりたかったのに、村上春樹や田中康夫ほどの才能がなかったのです。

自分が文学だけで食っていけるかどうかは、二十歳くらいまでに見極める必要があります。その年齢なら、まだ資格試験のための勉強などに間に合うからです。

ところで、なぜ小説家になりたいと思ったのでしょうか? なぜ自費出版で収入を得ようとしたのでしょうか?

「文章を書くことよりも、ディスコダンスのほうが得意だったから」ではありませんね?

「ピアノのコンクールに出場するための練習に忙しく、文章を書く暇などないから」でもありませんね?

「リリーフ投手として、ブルペンで集中を高める必要があるから」でもありませんね?

文章を書いて、自費出版することが、自分に向いており、ふさわしい職業だと感じられたからです。

でも、上には上がいたのです。

たとえポルノで食っていくことになり、それを不本意だと感じているとしても、物書きになったのは、好きでその道に入ったと言って良いのです。また、言う他ないのです。

国防・消防・農業・漁業・看護・介護など、肉体的に厳しい労働に従事している人々から「好きで選んだ道だろ」と言われても、返す言葉はないのです。

「収入を得るためだから、好きではない」という二項対立は、成り立たないのです。


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Misha

Author:Misha
スマホ時代にさからう評論系長文ブログ。冷静に通読できる大人の読者様を想定しています。

「若い人」に直接呼びかける文章は、18歳以上のヤングアダルト対象です。高校生は受験を最優先してください。

書く人は、新旧とりまぜて映画とアニメを見ながら文芸書に取りくんでみたり、昔の漫画を思い出したり、お国の先行きを心配したりしております。

記事中の色つき文字は、映画中の台詞・挿入歌からの引用です。あらすじは、あまり申しませんので、楽しみに御覧ください。取り上げる作品は、暴力・エロスなど特殊な要素を含んでいることもあります。

ときおり、耽美・BL・同人・LGBTに言及します。いずれの分野からも、偏見と差別と自虐がなくなるといいと思っております。

「二次創作の責任を二十四年組に押しつけるな」「実在同性愛者に甘えるな」が基調です。

全体として、二十四年組ファンが社会学者に物申すという珍しい構図。一部勘違い同人を叱責することによって全体を守るという意図もあり、ときにかなり辛口です。

記事は時々予告なく手直し・削除・分割しております。保存は個人的閲覧の範囲で、お早めに御随意に。転載・改変利用は固くお断り申し上げます。

解題


Casketとは、玉手箱。

でも検索すると棺桶がならびます。来世まで持っていきたい好きな作品の記録帳とご理解ください。