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【女流メンズ漫画、ネオテニープライド。】


高口里純の漫画作品『伯爵とよばれた男』に印象的なエピソードがあって……

老いを感じ始めた大女優が「世間から忘れられる前に死にたい」というので、それまでいじめていた若手女優へ自分自身のサツガイを命令するのです。

自殺幇助としての嘱託殺人。

彼女の謎の急死は、大女優らしいドラマチックなものとして華々しく報じられ、記録と記憶に残りました。若手のほうは彼女の生前の推薦によって、次の主役の座を得て、新しい銀幕の女王となりました。

神と人をあざむく恐ろしい取引の全てに「伯爵とよばれた男」が気づいていて、黙っている。

これ、若手自身を主人公に「私は何ものをも恐れずに生きていく。それが女優の道」というふうに言わせて幕を引けば、レディコミになるんですが、伯爵あるがゆえに、分類不能な作品になります。

あえて言えば、少女を主人公にした漫画が少女漫画で、成人女性を主人公にした漫画がレディースコミックなら、成人男性を主人公にしているので、メンズコミックです。

でも、そういうと『ゴルゴ13』や『ルパン三世』の仲間みたいです。実際にはそうでもないので、不思議なカテゴリです。

テーマとしては男性タイトルロールの活躍ではなく、女性の生き様なんだけれども、女性である漫画家自身が、女性の生き様の観察者・伝記作者としての男性キャラクターを必要としているわけです。

読者は、カッコいい男性の眼を通じて「女性の人生は悲しいものだ」というふうに感得する。

これは女性の人生の客体化であり、「イメージ消費」です。

これは池田悦子原作『悪魔の花嫁』でも見られる構図です。

高口には、同じ構図で男性の弁護士を観察者とした『ホテル』という作品もあったと思います。

久掛彦見の初期にも、同様に男性キャラクターの眼から見た「女は怖い」という話がありました。

これは少女の意識ではありません。成人した女流漫画家・原作者自身の意識です。なぜか。

彼女たち自身は、女性として生きていないからです。

漫画を描いたり、原作を考えたりする才能によって、男性中心の出版業界から「お前さん見どころがあるよ」と認められ、一等兵に取り立てられた格好です。名誉男性です。

それが「二等兵って可哀想」というわけです。

女優は物語を構築する側ではなく、自分自身を見世物として、使い捨てにされる側です。

男を待ち続ける女、他人の財産によって生きようとする女も同様に悲しい存在とされます。

悲しいという以上、それを書いたり読んだりする人自身は「こうはなりたくない」と思うわけです。

つまり名誉男性のナルシシズム表現は「悲しい女」ではなく、「伯爵とよばれた男」、あるいは「人間にも神にもなれない男」です。

里純、彦見といったペンネームも男性的といえるでしょう。

ここまでは、だからどうだってことはありません。創作物が都合の良いナルシシズム表現であり、逃避の手段でもあることは、男性が書いた場合も同様です。

さァここで、フェミニズムは何を主張すべきか?

「全ての日本人女性を一等兵に取り立て、二等兵として移民を入れるべきです」?

それとも「女性自身の手で、二等兵をカッコ良く描くべきです」?

じつは後者の考え方を取れば、金髪グラマー女優に対して、ネオテニーの日本人女性のほうが美しいという、現状のAKB系統の大流行こそ、日本フェミニズムの勝利なのであって……

だからこそ「それに共感できないBL派(擬似男性ナルシシズム派)は可哀想」という考え方が生まれてくるわけです。

ウーマンリブと言われた1960年代末くらいから、1980年代前半くらいまで、擬似男性的表現は「一部学識女性の自由の象徴」として称賛されたはずなんですが、その後に女性の大部分の自由が伸張したからこそ、価値観がひっくり返ったのです。

オスカル・フランソワは、ロベスピエールたち思想家が舌を巻くほどのラテン語を駆使し、軍隊を指揮したんですが、その後の時代には……

男性好みの妹趣味と、二十代後半に達した成人が「女の子」を詐称する若作り趣味が、意外や一致しちゃったのです。

だから「ダメな娘」という考え方のほうが歴史が浅いのです。

だから、BL派(擬似男性ナルシシズム派)について、偉大なフェミニズムという主張と、ダメ娘という主張が並存して、混乱した印象を生むわけです。

BL周辺が、(もともと単なる創作物なのに)常に騒がしいと感じられる所以です。



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Misha

Author:Misha
スマホ時代にさからう評論系長文ブログ。冷静に通読できる大人の読者様を想定しています。

「若い人」に直接呼びかける文章は、18歳以上のヤングアダルト対象です。高校生は受験・就活を最優先してください。

書く人は、新旧とりまぜて映画とアニメを見ながら文芸書に取りくんでみたり、昔の漫画を思い出したり、お国の先行きを心配したりしております。

映画評は、アップロードする以上は「下げる」ようなことは言わないことにしております。あらすじもあまり申し上げませんので、楽しみに御覧になってください。記事冒頭の色つき文字は映画中の台詞・挿入歌の歌詞からの引用です。

なお、取り上げる作品は、暴力・エロスなど特殊な要素を含んでいることもあります。

ときおり、耽美・BL・同人・LGBTに言及します。いずれの分野からも、偏見と差別と自虐がなくなるといいと思っております。

「二次創作の責任を二十四年組に押しつけるな」「実在同性愛者に甘えるな」が基調です。

全体として、二十四年組ファンが社会学者に物申すという珍しい構図。一部勘違い同人を叱責することによって全体を守るという意図もあり、ときにかなり辛口です。

記事は時々予告なく手直し・分割・削除しております。保存は個人的閲覧の範囲で、お早めに御随意に。転載・改変利用は固くお断り申し上げます。

解題


Casketとは、玉手箱。

でも検索すると棺桶がならびます。来世まで持っていきたい好きな作品の記録帳とご理解ください。