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『平清盛』第15回「嵐の中の一門」再考。

清盛くんが心を入れ替えて出世をめざすことにしたターニング・ポイントとなる回なんだけど、ちょっと難しい。

清盛くんは神輿をΣ(゚Д゚ υ) イタ!! 本人的にはただの反抗心だが、政治的には「院のためにうるさい坊主どもを追い払ってやった」という意味をもつ。たぶん本人は分かってなかっただろう。このドラマは清盛を「せんだんは双葉より芳し」ではなく少しずつ政治家らしく成長したように描くので最初はばかでも仕方がない。

ともかく「院には平家がついている。平家には弓の巧者がおり、不屈の闘志と強大な武力がある。お前らなんか怖くない。院政は盤石だ」そういう意味をもつ。じっさい鳥羽院はそのように解釈して、平さんち親子を軽い処分とした。結果的には院と平家のつながりを強めたので平家の出世のためになった。これは史実からして、そうである。

しかし神輿を射たタタリが次男坊に出た、と一門は解釈した。まっさきにそれを言い立て、騒ぎ立てる人物が姻戚身内にいることこそがこの一族の弱点のような気もする。忠盛としては一族分裂を回避するために真っ先に忠正を処分したほうがいいような気もする。海外ドラマだったら暗殺したかもしれないが、そこはスルーだ。(この時点ですでにストーリーとしては弱い)

ところで長男は元々棟梁が出世の足がかりとするつもりで他所からもらってきた子である。正確には最初はそうではなかったのだが、棟梁自身の言動とやっかいな姻戚の発言により、すでにそのような解釈が一族のなかで確認されている。なくなった次男の実母である棟梁夫人は、ここで改めてそれを言う。
「あなたが出世したがったのが悪いのです。トラブルメーカーを引き取らなければよかったのです。うちの子がたたられることはなかったのです」

棟梁「そうじゃ、わしが出世したがったのが悪い。もう出世するのをやめよう。上からの命令でいったん引き受けた仕事も放棄してよい」

長男「それを言われたんじゃ俺の立つ瀬がない。出世のためにもらわれてきた俺が見事この一族を高みに引き上げてみせます(※よそものであるお手前にしかできないことをやってのけます)から、棟梁は今更ガタガタ言わずに見ていてください。とりあえず上から言われた仕事は完成させます」

棟梁夫人「では完成させて出世するがよい。出世欲の犠牲となったあの子も喜ぶであろう」

……えーーと……。どこで気が変わったんだ宗子さん。

じつは宗子さん自身の中にはもう1つドラマがあって、こちらは一貫性がある。

彼女の長年の懸案は、長男がじつは夫の初恋の人の忘れ形見であり、だから夫がそちらばかり可愛がるような気がしていることで、後から正妻に入った彼女は貧乏くじを引いたわけだが、自分も息子に二人も恵まれたからまぁいいや、と思っている。本人のもともとの性格からしても、女のプライドとしても、実家(藤原氏の一派)と平家のパイプという立場からいっても、内助の功を尽くす所存でいる。(というように脚本は池禅尼の性格を解釈した)

それが息子をなくして、キレた。夫の初恋の人の象徴である鹿角のお守りを、一族の他の男も大勢いる前で泣きわめきながら叩き折るというヒステリーを披露した。

女性としては最も恥ずかしい、浅ましい姿をさらしてしまったわけだが、しかしそれでストレス解消になった。
ふと我に返ってみれば、長男自身はなにも悪いことをしていない。彼は彼で、生まれてすぐに母親をなくした哀れな少年である。今はなくなった異母弟のために曼荼羅を描いて奉納しようとしている。
「ではそうしてあげてちょうだい、あの子もきっと喜ぶわ」
まだちょっと距離感を残しているが、賢明な継母として落ち着きを取り戻した姿である……

鎮魂のための曼荼羅奉納・家族愛、それに絞り込めば間違っていない。それが「忠盛の出世欲」と絡んだ時におかしなことになる。宗子さんの発言に一貫性がないように聞こえる。忠盛は出世したがるべきだったのか、したがるべきではなかったのか。彼女はどちらと考えているのか。

冷静に考えれば、いつまでも「犬」と呼ばれて終わりたくないのは一族に共通の願いである。棟梁が昇殿したといっては泣いて喜び、舞い踊り、もっともっと上を目指そうってことでやってきたのである。

「でも、そこそこのところで満足していれば、不幸も起きず、家族そろって仲良く暮らせたじゃありませんか」というのが女の理屈。

忠盛はこれを受けて「お前になにが分かる、女は黙っておれ」とは言わない。息子が上の者にいびりころされたらしい事を知ると、上の者ではなく、なぜか自分を責める。

どうも男性が女心を理解することが奨励されているらしく、ここの男性は発想が非常に家庭中心・内向き・自省的である。すぐさま「そうじゃ出世したがった俺が悪かった・妻子に迷惑かけた儂がばかじゃった」と思ってしまう。

もともと宝塔再建は鳥羽院の命令であり、平家は鳥羽院の側近で、それが藤原摂関家にもパイプを作ろうとして「ばーか、甘いんだよ」と言われたのだから、とっとと宝塔を再建して院にますますの忠勤を誓い、「打倒摂関家・院のお力添えで念願の参議!」をめざせばよさそうなもんである。

「清盛、今までにない豪華な宝塔を再建して嫌味な摂関家の鼻を明かしてやろうぞ」「やりましょう父上!」「ばかばか、男ってどうしてそうなの! そうやって出世したがるから院のライバルに目をつけられたんでしょ! 出る杭は打たれるって言葉を知らないの」「そ、そうか……」と段階を踏めばまだしもわかりやすかったかもしれない。せめて「頼長を斬りに行く」といって止められるなら。

宗子さんとしては「出世したがることが悪いわけではない、一族に悔しい思いをさせないためにあの人も苦労しているのだ」と分かっていたのを、「腹立ちまぎれにあの人の今までの苦労を否定するようなことを言ってしまった」と後悔する場面が、たぶん必要だったのだろう。彼女の話し相手になる女房、ばあやのような人がいないのが残念だったかもしれない。時子をうまく使えるとよかったのか……
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Misha

Author:Misha
スマホ時代にさからう評論系長文ブログ。冷静に通読できる大人の読者様を想定しています。

「若い人」に直接呼びかける文章は、18歳以上のヤングアダルト対象です。高校生は受験を最優先してください。

書く人は、新旧とりまぜて映画とアニメを見ながら文芸書に取りくんでみたり、昔の漫画を思い出したり、お国の先行きを心配したりしております。

記事中の色つき文字は、映画中の台詞・挿入歌からの引用です。あらすじは、あまり申しませんので、楽しみに御覧ください。取り上げる作品は、暴力・エロスなど特殊な要素を含んでいることもあります。

ときおり、耽美・BL・同人・LGBTに言及します。いずれの分野からも、偏見と差別と自虐がなくなるといいと思っております。

「二次創作の責任を二十四年組に押しつけるな」「実在同性愛者に甘えるな」が基調です。

全体として、二十四年組ファンが社会学者に物申すという珍しい構図。一部勘違い同人を叱責することによって全体を守るという意図もあり、ときにかなり辛口です。

記事は時々予告なく手直し・削除・分割しております。保存は個人的閲覧の範囲で、お早めに御随意に。転載・改変利用は固くお断り申し上げます。

解題


Casketとは、玉手箱。

でも検索すると棺桶がならびます。来世まで持っていきたい好きな作品の記録帳とご理解ください。