【ミンガスさんちの直立猿人を聴きながら。】

  23, 2015 10:12
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「やかましい」と言ってみました。

インプロヴィゼイションが分からないと言った人は、もしかしたら分かりたくもないという意味だったのかもしれません。

なんでこんな騒音を聞かされなきゃならないんだ……と考えてみると、やはり先にクラシックのほうで不協和音を演奏するようになっており、それを白人の聴衆が黙って傾聴しているということが前提になっていたのだろうと思います。

「ストラヴィンスキーは確かにすごい奴だったが、俺たちにやらせりゃもっと面白いぜ」ってことでしょう。

ステイシー・キーチ演じるドラマ『マイク・ハマー』に、「俺が好きなものはコルトレーンだぜ」ってそのまんまな台詞があって、青い背景のCDを買いました。創作物の中で本物に言及することも大事です。

それ以来「ビバップとハードバップって何が違うん?」と思ってましたが、後者は前衛すぎて歯が立たないというか、硬派というか、兄貴すぎるというか、そういうことのように思われます。

ビバップ系のジャズは、少なくとも最初のうちは、とくに女性の眉をひそめさせたんじゃないかと思います。

お洒落をして、ホテルのラウンジやナイトクラブを訪れた彼女としては、優しい男性にエスコートされて踊りたいに決まっています。

逆にジャズメンにしてみりゃ、ビッグバンド時代の演奏を聞き流しながら食事したり踊ったりするハイソサエティの背後で「てやんでェ」と思っていたに違いない。

とくに大きな戦争があった後では「若い奴らが女も知らずに死んじまったのに」という気持ちがあったでしょう。能楽を引き合いに出すまでもなく、音楽には霊を慰める・神に呼びかけるという意味がある。

いっぽうで自分たち(の仲間)も米軍の一員として参戦したという経験は、誇りの感情を以前にも増して強めたことでしょう。

で、何人かの非常に才能ある人を皮切りに、ビッグバンドからの独立が果たされたわけですが……

特にミンガスは家系的にすごく複雑だったようなので、「出身で差別するとか下らねェよ」って気持ちを強く持っていたことと思います。

このアルバムタイトル曲も「人間がまだ白人と黒人に分かれてなかった頃までさかのぼってしまえば、どっちがえらいってことないだろ」という意味なのかもしれません。

確かベートーヴェンの室内楽に、こんなふうに全く味わいの異なるパートが素知らぬ顔して繰り返される曲があったと思います。まさにローマン的に悲劇的な部分と軽快な部分のギャップに笑えます。

(※「セレナード 二長調 作品8」の第4楽章。個人的に持ってるのは、メロディアから出た1988年のカガン、バシュメット、グートマンによるライブ音源に日本語解説を付けた盤。キングインターナショナルより、1993年。KKCC-6019)

ミンガスは楽譜が読めなかったとか、人種差別も受けたとはいっても、音楽教育はきちんと受けているわけで、もともとチェロをやっていたそうでもあり、音楽史上の突然変異でもなければ奇跡でもありません。

その点じゃ世阿弥やモーツァルトやディズニーと同じで、それまでに存在した様々なものが、彼一人の中に流れ込んで、また大河となって出て行ったという、巨大な貯水湖のような人だったのでしょう。ちょっと波の激しい湖だったようですが。


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