河合克敏『とめはねっ! 鈴里高校書道部』

  12, 2015 09:39
  •  -
  •  -
小学館ヤングサンデーコミックス。2007年5月7日初版第1刷、2009年8月30日第10刷発行。連載担当:坪内 崇。(奥付より)


じつに気持ちのよい、薀蓄系・部活動漫画。ゆうきまさみに似た可愛らしい絵柄で、単行本第一巻カバーの女子高生に惹かれて手に取りました。

北鎌倉に位置する「すずり」高校における、まさに廃部寸前の弱小部活動が不慣れな新入生を無理やり獲得して、少しずつ実績を積んでいくという王道少年漫画。

昨今手抜きな絵柄も多いですが、これは人物たちの黒髪の「ベタ」がきれいに塗られております。今じゃPC上の作業でしょうか。

キャラクターの髪色がカラフルすぎるとか、そういうことのない手堅い作品です。

基本的に四角い枠が続く古典的なコマ配置であることも中年には嬉しいです。

弱小なだけに部員数が少ないわけで、そのそれぞれのキャラ立ちがたいへん明確で、台詞のかけあいが楽しく、かつ描き分けが良いので気持ちよく読めます。もとスケバン(今も?)らしき加茂ちゃんがすこぶるカッコいいです。

主人公は男子生徒で、ダメな僕と女子の先輩たちというハーレムの配置になっており、男性ファン冥利でしょうが、展開は意識的で、意味不明なかけあい漫才に流れていく同人的ぬるさが無いところが安心です。思いを寄せる女子部員が、自分よりカッコいい他校の男子生徒に見とれる姿に胸を痛める様子もいじらしいです。

薀蓄の挿入具合も絶妙で、キャラクター紹介にあたる話が3回くらい続いたところで顧問による解説という構成が心地よいです。編集さんが有能なのでしょう。

参考文献が欄外に掲載されているのは、昨今の著作権意識でしょうが、実際に読者の参考になるので良い試みだと思います。『マンガ 書の歴史』なんてマンガもあるんですね。

漫画家は書の心得がなかったんだそうで、現実の書道パフォーマンスの流行に乗って企画が立てられ、戦略的にキャラクターが設定されたのでしょう。「闘い」と聞いて目が輝いちゃう望月さんが可愛いです。

眼鏡っこメイド服とか、特撮を意識したブラック軍団など、脇固めキャラクターの味つけに「オタク」的要素をちょっと取り入れているところが、漫画家とその世界との距離感を示しているようで興味深いです。

じつは今んとこ一番印象に残っている台詞は「おそるべしピンクレディー!」 まだフルコーラス歌えます。

さすがに現実にはここまでやらないという漫画的誇張が効果的で、しかも「書がうまくなりたい」という若者たちの清新な熱意が伝わってくる。実際に読者の目に「書」の作品を見せるというのは、小説ではぜったいに出来ないわけで、挿絵として載せても効果が違う。

「漫画」という表現媒体の特性が最大限に活かされていると思います。

作中で部員による作品として掲げられている書は、実際に書家に書いてもらったものだそうです。当然、専用紙(半紙)に書いて頂いたのを持ち帰って、スキャンして、パソコンに取り込んで……ということをしているのでしょう。パソコンのない時代だったら難しい表現だったかと思われます。

コミックス巻末では読者から「書」作品を募集・発表していました。個性的な応募がいっぱいあったようです。小学館の底力でしょうか。

マンガはみんなで作るもの。

久しぶりにプロの仕事を見た、という清々しい思いがいたしました。墨の匂いも聞こえてくるようでございます。


Related Entries