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あらためて腐女子とは何か。


榊原 史保美『やおい幻論』(夏目書房)は、意外なほど新しくて、1998年の発刊です。

「98おじさん」の頃ですから、日本におけるインターネット元年のような時代でもあります。

「やおい少女とは、トランスゲイである」

この間違った説が発表された途端に、やおいという言葉は使えないことになりました。本物のトランスゲイを激怒させ、本当の人権訴訟が起きる可能性があるからです。

代わりに登場したのが「腐女子」ですが……これは、口頭で発音しても意味がありません。

【即売会では無意味。】

おなじ電車に乗り合わせた人どうしが「あなたもふじょしですか?」という会話をしたとは思われません。

「あなたもコミケへ行くんですか?」で充分ですし、そもそも一般乗客の前でそんなことも言わない約束です。

即売会の中に入ってしまえば「私達やおいっていうのは~~」と演説をぶつ必要もありませんし、「ふじょしの○○です!」と自己紹介する必要もありません。

名刺を配る人はあったかもしれませんが、この場合も「サークル○○代表・何々」とペンネームを印刷しておけばいいだけです。

「出品物の8~9割が二次創作」という状態は、1980年代以来、そういうものを売っているという噂が伝われば伝わるほど、そんなもの見たくもないという人は参加せず、ぜひ見たいという人が参加するという選別が機能するわけですから当然です。

そのように淘汰されて残った人々は、同じ趣味の仲間が集まってることを分かってるわけですから「こんにちわ~~。お久しぶり~~」と挨拶しあえば済む話です。

ここでは「あの~~、私もふじょしなんですけど同人誌を買ってもいいですか?」という会話は、明らかに無用ですね?

海外の女性もはるばるお買い物に来てくれることは、つとに日本人参加者によって報告されていますが、彼女たちが「Je suis la Fu-joshi」と名乗るのは見かけた試しがありません。

じつは、この言葉は即売会内部では使われていないはずです。

【ネットスラング。】

「腐女子」とは、明らかにキーボードによる変換ミスであり、じつは最初からインターネット・スラングだったのでしょう。

ただし、ダイヤルアップ接続時代のインターネットへ、HTML文書として二次創作をアップロードした人が「ここは腐女子サイトです」と名乗っていたかというと、どうもそうじゃなかった気がします。

「ここは同性愛をテーマとする小説サイトです。耽美、JUNE、やおいという言葉を知らない人はご遠慮ください」というのが定型的な挨拶文だったかと思います。そして、それで充分です。

ミステリー作家・ホラー作家が「俺は殺人マニアです」と名乗ることはありません。自分自身ではなく、作品について説明しておけばいいのであって、自分にレッテルを貼る必要はありません。

二次創作ではなく、オリジナル作品の発表者なら尚さらです。設定から考えて、心をこめて書き上げたというものを自虐してはいけません。

「せっかく書いたのに山も落ちもないなんて言いたくない」という声もあるものです。だから「やおい」とは言わないとして、その代わりに「くさった作品です」とも言いたくないはずです。

とすると、「腐女子」というのは……

ダイヤルアップ時代のインターネット掲示板において、アニメファン同士が「次回放映が楽しみだ」という会話をしているところへ、わざわざ割り込んで、「キャラAとキャラBってヤバイですよね~~」といった二次創作妄想を書き込んでしまう人のことだったのかもしれません。

ネット交流の初期には、掲示板を私物化するとか、キャラクターになりきって男言葉で投稿をくりかえすとか、まァいろいろあったものです。

最初から、そのような「荒らし」行為に対して、他人がつけた「タグ」の一種だったのかもしれません。

女性が自分から「こんな話ばかりしている自分はヤバイw」と言い出したとしても、機能としては同じです。本当にヤバイと思うなら書き込まなければいいのに、わざわざ書き込んでしまう人という意味だからです。

リアル即売会参加者が「ちょっとやめて。目立たないで」と思っても、意に介さない。じつは即売会には参加したことがなく、外部へ漏らさないという約束事を知らない。最初から、そういう温度差があったのかもしれません。

逆に「自分から申し出ろ」と言われた時に、抵抗する人があったから、タグ付け論争というものが起きたはずです。

【論争の彼方に。】

あえて例えれば「黄色い星をつけろ」と言われて、断る権利があるのが本当です。最初からその権利が否定されていたのが民族差別の悲劇でした。

だから自分にレッテルを貼る必要はありません。原作ファンを悩ませるような妄想を書き込まないのがマナーであると言われたら、そのマナー、あるいはネチケットにしたがえば良いだけです。

それをあえて破っておいて「どうせ私は腐ってます。男性中心社会が横暴なせいだから、私のせいではありません」と言うなら、これはやっぱり、あらゆる意味において不適切です。

「いや、そういうことじゃない。正当な国民の権利に基づいて、BL表現の自由を守りたいだけだ」ということであれば、尚さら自虐してはいけませんし、原作ファンに対するマナーも守る必要があります。

どちらも「おなじ国民」であることに基づいて、互いに傷つけ合わない約束をする、ということだからです。

ただし、論争の果てに「先にタグをつければ、後はなにを言ってもいいんでしょ」という態度が発生した可能性はあるかと思います。

もともと手塚を神とあがめる真面目な漫画同好会が集まっていた場所で、喧嘩を売るような「山なし落ちなし」を名乗ったのも、そういう気持ちの表れともいえます。

だから、心性としては近いんだけれども、あくまで昔の「やおい」がプロに遠慮すること(権利問題)を自覚しており、即売会限定で取引し、原作者やテレビ局や学校へ通報したりはしていなかったのに対して……

国会議員も警察もPTAも原作者もテレビ関係者も「リア充」も多数参加しているSNSにおいて、暴言・過剰リツイート・一斉投稿によるランキング占拠といった言論テロというか、そういうことをくり返す集団は、別の派閥と考えるほうがよいのかもしれません。

そしてそう考えると「腐女子なんて、そんなに威張って目立つものじゃないでしょ」という指摘もありますが……

それは「腐女子=やおい=二次創作者」という前提で、昔ながらの処世術を言っているわけであって、現代SNS専業者にとっては「目立ってなんぼ」なのかもしれません。

そうすると、アカウントに鍵をかけろと言われても掛けない。ミクシィへ行けと言われても行かない。いやなら読むなというなら、自分からも読まれない方法を考えればいいのに考えない。不思議な行動にも、一本の筋が通って参ります。

重要なのは整合性であり、納得できることであって、だからただちに規制すべきかどうかというのは、また別の話です。

今や当事者は「タグ付け」によって自らゾーニングを図っているわけですから、マナーを守っているとは言えるのです。

フェミニズム的には、またこれを「男性社会への皮肉」と言うのかもしれませんが……。


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Misha

Author:Misha
スマホ時代にさからう評論系長文ブログ。冷静に通読できる大人の読者様を想定しています。

「若い人」に直接呼びかける文章は、18歳以上のヤングアダルト対象です。高校生は受験・就活を最優先してください。

書く人は、新旧とりまぜて映画とアニメを見ながら文芸書に取りくんでみたり、昔の漫画を思い出したり、お国の先行きを心配したりしております。

映画評は、アップロードする以上は「下げる」ようなことは言わないことにしております。あらすじもあまり申し上げませんので、楽しみに御覧になってください。記事冒頭の色つき文字は映画中の台詞・挿入歌の歌詞からの引用です。

なお、取り上げる作品は、暴力・エロスなど特殊な要素を含んでいることもあります。

ときおり、耽美・BL・同人・LGBTに言及します。いずれの分野からも、偏見と差別と自虐がなくなるといいと思っております。

「二次創作の責任を二十四年組に押しつけるな」「実在同性愛者に甘えるな」が基調です。

全体として、二十四年組ファンが社会学者に物申すという珍しい構図。一部勘違い同人を叱責することによって全体を守るという意図もあり、ときにかなり辛口です。

記事は時々予告なく手直し・分割・削除しております。保存は個人的閲覧の範囲で、お早めに御随意に。転載・改変利用は固くお断り申し上げます。

解題


Casketとは、玉手箱。

でも検索すると棺桶がならびます。来世まで持っていきたい好きな作品の記録帳とご理解ください。