MISHA'S CASKET

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2015年06月 1/3

【BLと文芸1 ~あらためて『風と木の詩』】

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竹宮恵子作品そのものを淡々と見てみましょう。ロマン派の詩を意識した擬古調の巻頭言は、作者が上田敏などを愛読したことを示しています。「わが青春の炎よ」という追憶の言葉は、いま正に青春まっさかりの人が発するものではありません。主人公は老境に達して、半生を書き残す決意をしたものと見えます。この主人公は、十代の頃に音楽学校へ入学し、父親から受け継いだ天稟を発揮したピアニストです。仔細あって出奔しますが、お...

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【BLと文芸2 ~『風と木の詩』に見る女の都合。】

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三島由紀夫の『禁色』は、老人が女性に復讐するために美青年を手足のように使うつもりだったのに、途中からその美青年自身の内面描写に、まだ実年齢で若かった作家の熱意が込められてしまったというものでした。竹宮恵子の漫画作品は、一見すると「第二部の主人公が女性にだまされたので、同性の子どもに手を出すようになった」というふうに読めます。ここから「女性で失敗すると同性愛に逃避する」という偏見が生まれやすいわけで...

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【BLと文芸3 ~森鴎外『ヴィタ・セクスアリス』が指摘したこと。】

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金井湛くんの報告によれば、少年とは旧制高校生の寄宿舎における受身を表す隠語だそうです。「軟派」とは清潔らしく見える白足袋を着用して女性のいる店へ通う若者で、「硬派」とは粗野な風体を保ちつつ、年下の同性を相手にする若者で、前者には都会慣れした東京出身者が多く、後者には九州男児が多かったようです。これは九州にはゲイが多いって話では全然なく、尚武と男尊女卑の気風から相対的に少年へ傾くもので、都会慣れして...

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【BLと文芸4 ~男性作家の流儀。】

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本来はストレートである(と思しき)男性間における、先輩・後輩の立場の差を利用したパワハラが性暴力にエスカレートし、それを「衆道の契り」と呼んで美化してきたのは、男性が自分でやってきたことです。また、江戸時代の黄表紙本に示されたように、人買いによって集められた男児に華美な振袖を着せ、歌舞音曲を仕込んで客を取らせ、それを「若衆の情け」と呼んで美化したのも、男性が自分で書いてきたことです。また、性愛の場...

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【BLと文芸5 ~ヴィタ・セクスアリス変奏曲。】

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女流は、1950年代の銀座や、1970年代の新宿へ突撃取材を敢行し、キンゼイリポート顔負けの報告書を作成し、そこから換骨奪胎して創作に励んだ……わけではありません。それは最初から、男性の遺した文芸作品(歴史的報告)の数々を読みこなし、その部分の寄せ集めを再構成した、翻案であり、改変です。女流による衆道表現とは、いうなれば『ヴィタ・セクスアリス』の主題による変奏曲であり、さかのぼれば中世の人文復興にたどり着く...

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【BLと文芸6 ~青池保子『イブの息子たち』】

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音楽家や落語家は同じ演目を繰り返せば良いが、物書きは「また同じ話を書きました」というわけにはいかないとは、永井荷風が言った通りです。だから時代が下れば下るほど、個々の創作家は自分自身の過去作品を、後続の若手は先輩の作品を、否定するような方向へアイディアをひねります。逆にいえば、古い作品ほど、アイディアの原型を保っていると考えることができます。竹宮恵子『風と木の詩』よりも早く発表されたのが、青池保子...

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【BLと文芸7 ~オスカルとアンドレセン。】

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池田理代子『ベルサイユのばら』を映画化するなら、男装の少女オスカル役は、ビョルン・アンドレセンのような美少年が良いというファンの声があったらしいのです。どちらのファンやら。当時すでに「男装の少女よりも本物の男の子のほうが魅力的だわ」という感性を、女の口から表現し得たといえるのかもしれません。言った人の脳裏では、もう軍装のアンドレセンと、本来はオスカル嬢のお相手となるべき美青年たちのロマンスの場面が...

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【BLと文芸8 ~火のないところに煙を立てるのは当たり前です。】

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昔の映画俳優は、映画会社と専属契約をしていたので、所属先のちがう俳優同士、俳優と女優の共演は、基本的に無理でした。古い映画を観ると、俳優名のかたわらに「青年座」「文学座」など、所属劇団名が記されていることがあります。彼らは本来は映画俳優ではない、わが社の専属ではないということを、わざわざ言う必要があったのです。でも、観客の脳裏では、自由なキャスティングの夢が繰り広げられていたことでしょう。娯楽の少...

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【BLと文芸9 ~耽美の配役。】

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ミステリにおける探偵と伝記作者という定型。運動競技におけるチャンピオンと挑戦者という定型。これが与えられていれば、あとは「誰を連れてくるか」というだけです。同様に、耽美派のステレオタイプが既に与えられていれば、そこへ「誰を配役するか」というだけです。「必ず男役・女役を割り振るべきこと。相対的に華奢な若年者が女役にふさわしい」いう定型は、過去に男性が決めたことです。ストレート女性が複数の美男を見れば...

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【BLと文芸10 ~創作物における自己愛。】

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創作表現における自己愛とは、自分の顔が漫画みたいに可愛いと勘違いすることではありません。性適合手術を受けたいと願うことでもありません。ボウズ頭よりも豊かな長髪。無精ヒゲよりもスベスベの頬。首筋が野太いよりも細い。女性であれば、男性らしいものよりも、女性らしいもののほうが価値が高いと感じる。広くとらえれば、日本人が日本人選手の海外試合における活躍を応援する気持ちと同じです。テレビを通じて試合観戦する...

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【BLと文芸11 ~女性性オプション。】

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男の同人は、お気に入りの女性キャラクターに眼鏡だの猫耳だの様々な要素を付加したがる。が、女性は二人の男性キャラクターを「組み合わせる」と考えることで満足するから、そこが男女の違いだという声があります。でも、BLキャラクターというのは、男性でありながら「女役」という最大のオプションを添加されています。そして、女性作家自身の価値観を基準に、その役にふさわしいと感じられる「化粧」が施されるものです。長い...

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【BLと文芸12 ~ばらの下で愛を描く。】

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いわゆる二十四年組による美少年趣味の作品が流行したのは、池田理代子『ベルサイユのばら』が大ヒットした直後からです。オスカル・フランソワは、出生エピソードは別にして、初登場時から男装した15歳の近衛兵として読者の前に現れます。男装の麗人、すなわち男役の少女の反対は、なんでしょうか。女役の少年です。いずれも、今よりも「女のくせに」と言われることの多かった時代に、女性を最も面白がらせる逆転劇という点で同質...

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【BLと文芸13 ~禁断の愛もいろいろ。】

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年齢差、身分差、教員と生徒、血縁。ファンタジー要素を導入して「愛する人を傷つけてしまう呪いをかけられた」とか「じつは人間ではなかった」という設定にしても良いです。小泉八雲『牡丹灯篭』のように、相手が幽霊なら、まだ若い息子の保護者は「とり殺されてしまえばいいさ。それが愛」と言ってはいられません。高僧を呼んで、幽霊退治をすることになるでしょう。でも結局、本人は幽霊の恋人を忘れることができず、相手の菩提...

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【BLと文芸14 ~百合と薔薇と水仙。】

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月岡芳年の作品には、男性ではなく老婆が若い妊婦を責める絵があります。シェリダン・レ・ファニュも男性作家ですが、1871年作品『吸血鬼カーミラ』は、妙齢の女性吸血鬼に妙齢の女性犠牲者が魅了されていく様子を、後者の自伝の体裁で書いたものです。日本では男性の翻訳者が女流顔負けのお嬢様言葉で19世紀の深窓の令嬢らしさを表現しております。(創元推理文庫)確かフランソワ1世の所蔵品の中には、女性同士が差し向かいに入...

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【過去の栄光に生きる同人。】

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テレビで『大後悔時代』ってのをやっていたので、同人やって後悔しないためにという話をしてみようと思います。ここんとこ、新卒者の就職率が良くなったらしいです。でも去年までに就職できなかった人が新卒採用してもらえるわけではありません。不運な時代に当たってしまった人が、せめてインターネットで無料公開される同人作品を読むことを生きがいにする(好きなものが規制されたら悲しいな)と思うのは当然です。即売会へ出か...

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【個人誌は趣味の範囲です。】

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同人誌にもいろいろあって、「歴史ある写真同好会の会長として、数百人の会員を束ね、投稿作品を厳選して誌面に割りつけ、海外との交流会や撮影旅行を企画・実施してきました」といえば……話を聞かされたほうとしても「素晴らしい。そのノウハウと人脈をぜひ我が社のために」って言いやすいわけです。でも「在学中は、友達と長電話するのが一番の楽しみで、時々エッチな小説を書いて、書いた順に並べて売ってました」という個人誌の...

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【挫折した同人のほうが多いです。】

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誰しも自分の属する「ムラ」を守りたいのは当たり前です。だからこそ、現役のムラビトは、めったなことを申しません。事情通ぶった顔をして、お金に絡んだ悪い話ばかり広めたがる人は、ひそかに現役をつぶしたいと願っている人です。コミケも今年で40周年です。どこの業界も同じですが「今年のナンバーワン」と認められる人は、40年間で40人しか存在しません。夏・冬を別に計上しても、80人です。年2回開催していなかった時代もあ...

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【崖っぷちへ向かう同人。】

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大学の勉強について行けなくなって、同人活動に夢中になってしまった人は、事実上の中途退学者です。国家試験に合格した人は、弁護士や看護士としての就職先を探しています。公務員試験に合格した人は、公務員になります。それよりも一般企業で働きたいので「表計算ソフトの勉強をしてきました」とか「プログラミングの資格があるので、その分野で使ってください」と言える人は、少し有利です。ただの中退者が同じレベルで戦えるわ...

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【マジョリティ同人の矛盾。】

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ポルノグラフィを売るお店を開いていた人のところへ、大勢のお客様が立ち寄ってくださったなら、当然でもあり、ありがたいことでもあります。でも、他を否定する根拠にはなりません。ポルノグラフィの存在自体は上等ですが、ポルノを格別に愛する人が、他を差別する権利を持っているわけでもありません。二次創作も、BLも、ロリも「ポルノだと思われたくない」という声は、何十年も前から継続して存在します。若い人のあいだでは...

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【同人の母胎は日本社会です。】

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1950年代から1980年代まで、アイラインのきつい化粧と頬のこけたように見えるチーク使いが流行ったのは、外人女優の真似がしたくて堪らなかったからです。でも新世代は、その滑稽さに気づいてしまいました。ネオテニーの日本女性らしさを維持したほうが、かえって国際競争力が高いことを知っています。これは男性も同じことで、もうゼロハリバートンを持つ青年も、レノンと同じ型の眼鏡をかける青年も少ないでしょう。国産アニメ、...

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【モラトリアムの終焉。】

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もう、中年モラトリアムの「あの頃」自慢が通用する時代ではありません。今までは、バブル崩壊後の不景気が続いていて、老いも若きもルサンチマン気分を共有することができました。でも、その間にも海外へ渡って、特定非営利活動を始めてしまう新世代の活躍が報じられてきました。パティシェ、ソムリエ、ワイン醸造家など、男の職場だと思われていたところで名を挙げる女性も現れました。建設現場で大工修行する女性もいます。自分...

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【二次創作の発表場所。】

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テレビで『ハリー・ポッター』を放映していましたが、個人(の家族)で視聴するための録画なら、複製権の侵害とは見なされず、いちいち届け出なくても良いことになっています。でも、それをダビングして売ったといえば、海賊版です。最初のうちは「うまくやった」つもりの人が自慢してしまうこともありますが、模倣者が増えて「示しがつかない」と考える人も出てくれば、規制が始まります。テレビでマルサ(東京国税局査察部)の徹...

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【犬派と猫派の二次創作。】

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アウトドアスポーツ好きで陽気な男性を「犬派」、読書や書きものの好きそうな内向的な男性を「猫派」と呼び、いずれも目鼻立ちの整った美青年として並べて描いたイラストが、まさにインターネットに流されたことがあったのでした。見た人の多くが「自分自身はどちらに属するか」を自己申告しました。何割かの人が「交際するならどちらの男性が好ましいか」を自己申告しました。いずれも、イラストを描いた人(またはネットへ流した...

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【男女同権教育と、BL弁護の一線。】

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女生徒に漱石『こころ』を読ませる目的は?「先生の奥さんが可哀想。この作品には男性の自分勝手が表現されています。不愉快です。教科書から削除してください」と、青年女子の部の主張を発表させるためではありません。男性心理を理解させるためです。じつは、おのれを責め続ける先生は、カッコいいのです。「ま、いっか。しょーがないよ」と自分を甘やかすのではないからです。そのくせ罪の意識から逃れるために酒色に溺れたりす...

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【黒バス犯の意義。】

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自由は自明であり、自由に理由はなく、自由は生得の権利です。黒バス犯と呼ばれる彼は「母親から精神的に傷つけられて、人生に自信をなくしたので、BLに夢中になった挙句に、成功者への嫉妬に駆られて事件を起こした。失うものは何もない」旨、意見陳述しました。ここには「ゲイならゲイとして、容姿に自信を持って、アバンチュールを楽しむような生き方ができていれば漫画には逃避しなかった」という含意があります。これは、昔...

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【SF漫画市場の男女同権。】

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現代の実社会を懸命に支える大人へ向かって「このまま行くと大変なことになる」とか「未来のほうがマシだ」とか言えば?「ふざけるな。親の苦労も知らないで」ってなるでしょう。だから、SFというのは若い男性の娯楽であり、誇りです。親父から「本ばかり読んでないで、汗水たらして働け」と言われたら、「ふっ。あんた達は何も分かってない」とか言ってみたい世代のものです。手塚治虫のSF漫画が、当時の大人から「くだらない...

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【創作女子の自由。】

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田山花袋の『蒲団』に、地方在住の女性から男性作家のところへ、私も上京して作家になりたいという手紙が来るエピソードがあります。創作家というのは、女性がセクハラの心配をせずに従事することのできる貴重な職業の一つです。自宅で描くだけですから。そもそも男性であっても、才能だけで食っていく覚悟をするのは勇気のいることです。自費出版したものが売れるかどうか、見知らぬ人ばかりの会場へ持ち込んでみるというのも、た...

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【同人の作風は1980年から変わっていません。】

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1980年の時点で、すでに多くの人の手に「この程度だったら私にも書けそうだから、次は出品してみよう」と思わせるか……「友達に借りた同人誌が面白かったから、次は自分で買いに行こう」と思わせる物が行き渡っていたから、1981年のコミケにおいて、最初のアニメブームが起きたと考えることができます。つまり、すでに特殊なテーマを持った同人誌というものが存在し、多くの人に購入されていたのです。1970年代後半というのは、ハイ...

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【サッカーやりたければやります。】

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なでしこは一朝にして成ったのではありません。今や指導的地位にいる女性には、竹宮恵子と同じ団塊世代、あるいは高河ゆんと同じ第二次ベビーブーム付近の世代が含まれていることでしょう。つまり、すでに「女性だから何もやらせてもらえなかった」とは言えない時代に盛んになったのが、今でいう二次創作であり、BLです。それは、単に女性による表現形態の一つであり、多様な選択肢の一つだったと考えるのが適切です。サッカーや...

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【フルカラー同人誌とは。】

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同人誌の体裁が豪華になったものです。その発刊が可能になったのは、同好会の年会費と会報発行に要する実費との差額を、同好会の主宰者がすべて自分の飲み食いに使ってしまったからではありません。ちゃんと会員に還元したのです。言い訳は立つのです。念のため、高性能なパソコンの普及していなかった1980年代後半には、彩色はすべて手作業でした。それは「かるい小遣いかせぎ」という気分で完遂できる作業ではありません。...

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