2006年10月、ライアン・マーフィー『ハサミを持って突っ走る』トライスター

I want rule and boundaries.

原作:オーガステン・バロウズ 脚本:ライアン・マーフィー 撮影:クリストファー・バッファ 美術:リチャード・シャーマン 編集:バイロン・スミス 音楽:ジェイムズ・S・レヴァイン

原題:Running with Scissors。全米ベストセラー小説を完全映画化。

だ、そうですが……小説じゃないんですよ。自伝なのです。えええええっ。アメリカ社会の事実は小説よりも奇なようでございます。

パッケージによると「青春シニカル・コメディ」ですが、とてもシニカルどころの騒ぎでわ。

基本ホームコメディには違いないですが、自分の精神が安定している時に観ましょう。くり返しますが自伝です。アメリカって。

海外作品に多い主人公の独白から始まる回想録ですが、人間あまり自由だと、かえって規則がほしくなるもので、ダリも活躍していた時代のお話ですから、たぶん「シュール」という言葉がいちばん適切でしょう。

なにしろ美術さんものすごく頑張りました。これほどのデコラティヴさは日本人にはなかなか出来ませんが宮崎駿に匹敵するとは言えるかもしれません。なお、CGではありません。尊敬をこめて映画バカどもめ。

真っ先に連想したのは『ロッキー・ホラー・ショー』と、やっぱり『アダムズ・ファミリー』なのでした。

1970年代若者文化のクレイジーっぷりをやや誇張的に取り入れているのも魅力的です。全篇に渡って音楽がすごくカッコいいです。

序盤に登場する子役がすごく可愛いんですが子どもの話ではございませんで、十代の成長物語。主役はややくせのある容貌ですが、悩める表情の自然さに好感度は高いです。(14歳に見えないところがちょと困る)

キャラ立ち抜群すぎる面々は、誰もが正常と異常の境界線上を右往左往する複雑なサバイバー。ちゃんとモンスターではなく病める人間として、悲しい実在感を帯びているから英米俳優界は深いです。

しかもギリギリのところで小津作品を思い出すのは、話法・構図・色合いのせいでもあるんですが、根本的に品が良いと申しますか、それでも人生を信じてると申しますか、なんか優しいのです。いやむしろ、主人公の精神がタフだったというべきか……。

観客は彼の眼を通じて周囲の個性的な人物たちを観察するわけですが、その眼がいいのですね。(詳細は御覧になってご確認ください)

母親役アネット・ベニングの名演は序盤から際立っております。アレック・ボールドウィンがいい感じに量感を増しました。グウィネス・パルトロウの冷たい美貌が印象的。

なお、よくこれを脚本から削除しなかったなっていう要素があって、メイキングでも真っ先に「憎むべき」って言ってるあたり、アメリカは気を使っております。この役を演じちゃうと俳優が後で苦労することが多いので、なにごともなかったことを祈ります。

2時間2分の長尺ですが、編集の良さでテンポよく観られます。


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