「恐怖の神」の職能を考えてみる。

キャスパーみたいな幽霊なら怖くない。怖いのは「何をするつもりか分からないがジッとこちらを見ている」とか「とりころされる」とか「霊の世界へ引きずって行かれる」とか、そういう時。

「天国よいとこ一度はおいで」という歌があるが、霊の世界がいいところだったら……すぐにご一緒するのは遠慮するかもしれないが、怖くはなくなるだろう。

とすると、恐怖を感じる原因のひとつは「不安」「先行きの見えないこと」だ。

恐怖を感じている心の正反対と思われる言葉は「明朗快活」「明鏡止水」「公明正大」など。先行きの見通しがあって、心が落ち着いている様子。共通するのは「明」

恐怖を象徴するのは「暗」だろう。

暗闇の中で光る夜行性の肉食動物の眼。彼らは人間より夜目がきき、鼻がきき、脚が早く、顎が強い。確実に食われる。しぬこと自体もいやだが痛い思いをするのは尚いやだ。

逃げるか。どこへどう逃げるか。どこに住み、どんな武器を作って対抗するか……

恐怖は生き延びるための本能的な戦略でもあり、知恵の源でもある。恐怖の神は、「無知・無力と不安の神」であると同時に逆説的に「賢さの神」「強さの神」ってこともあり得る。恐怖に打ち勝つために恐怖の神に祈るということも考えられる。セント・エルモの火みたいなものは、悪霊と思えば悪霊だし守護神と思えば守護神だ。

また個人の滅亡を恐れるから仲間を求め、遺伝子を伝えようとする。夜は恐怖を呼ぶ時間であると同時に交歓のときでもある。
なるほど恐怖の神と愛欲の女神がひとつ腹であっても、うなづける。ついでに音楽の神とか詩作の神なども眷属にいるといいかもしれない。


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